第9回図書館総合展 2日目

 相変わらずみなとみらいは無機質で不思議なところだった。午前中は1つフォーラムに出て、午後はシンポジウムに出た。とりあえずざっと書いておこう。

テクノロジーマーケティング&デザインドリブンでこんな図書館できるんじゃない       −Web2.0時代にみる図書館の社会的機能−2007年11月8日10:30-12:00

 午前中のフォーラムは進行役もパネリストも皆さんベンチャー企業の社長さん達でした。あまりまとまりのない話し合いだったし、時間配分も失敗していたのだと思うけど、社長さん達が夢想する図書館に対する2つの提案は考える必要あるなと思った。
 1つは、図書館の予算の話。いうまでもなく図書館の予算は今どんどん削減されているわけで、その一方でサービスはこれまでよりも充実させなければならない。んじゃあどうするかというときに簡単に思いつくのが、じゃあ自分でお金を集めましょうということだ。ここで寄付を募るという手も当然あるが、募った寄付を運営費に直接充ててしまってはどんどん食いつぶしてしまう。それはまずい。なら、寄付で得たお金を運用して、自律的な図書館経営モデルを作れないかなという話だった。具体的なプランに関しては知識の足りない私はよく理解できなかったが、予算を自ら調達する方策を考えるという発想はとても良く理解できる。というより誰でも考えつきそうなことなんだけど、パネリストの一人の方が、これまでの「図書館の常識」というヤツがそのような発想を邪魔するので、簡単にはいかないだろうとおっしゃていた。私もなんとなくそれは感じる。それは多分図書館の公共性(?)の問題とも関係してくるし、図書館員の雇用制度とも関係してくるし、id:katz3:20070702でkatz3さんがおっしゃっている「空気」のようなものも含まれるのかもしれない。図書館は「やれない」のではなく「やっていない」のだというパネリストの言葉が印象に残った。
 さて、2つ目は1つ目と関係してくるが、サービスをもっとニーズに合わせて計画的にやれという話だったのだと思う。幾ら予算があったとしても増殖し続ける多種多様な図書館のサービスをすべて完璧にやるなんて絶対無理なのだから、きっちり調査して、顕在的、潜在的ニーズを把握して、ターゲットを絞ってサービスしましょうという話だ。資料の提供、物理メディアにこだわらない情報の提供、場の提供などなど、どれを重視してサービスしていくのかということ。これももっともな話だ。私は特に図書館は潜在的ニーズをうまく捉えられていないと感じている。どうも図書館はアンケートをとるだけで満足している気がしてならない。消費者は自分のニーズを認識してはないというのは、商品開発の常識なのだろうけど、図書館の利用者は、商品の消費者と同等か、またはそれよりもさらにニーズを自覚していないと思う。図書館でもサービスを受けてはじめて「おお、こりゃ便利だ」と気づいてもらえるサービスをしなければならない。
 この潜在的なニーズに対する取り組みの話は、午後に行ったシンポジウムで事例報告が行われていた。

利用者300万人の大学図書館像 ー学習支援図書館の姿を求めてー 2007年11月8日 13:00-17:00   国公私立大学図書館協力委員会主催 平成19年度シンポジウム

 午後はこのシンポジウムに出た。午前のフォーラムもそうだったが、資料がもらえなかったのはかなり不便だった。こっちはとくに四時間もあるので。午前の話と関係して、1つの事例報告について少し書いておく。

慶應義塾大学における学習支援の方向性を探るフォーカス・グループ・インタビュー」*1

 この発表も資料が配付されなかったので、記憶にたよって書かざるを得ないので、間違いがあれば、指摘して頂けると助かります。
 この事例報告は大学図書館におけるEBL*2のE(evidence)を図書館の現場で作り出す試みとして興味深いものだった。学部1、2年生で、図書館をよく利用するグループと図書館をほとんど利用しないグループに分けて、5、6人ずつ2時間のインタビューを行った結果を分析した事例報告だったが、ここから報告者が導き出した結論は利用者の図書館に対する潜在的なニーズをうまく炙り出していたのではないかと思った。
 その結果の中で印象に残っているのは、1つに、調査によって学生の学習の輪の中に図書館員が入っていないことがはっきりと示されたということだ。どうゆうことかというと、学生は何かレポートや授業の課題なので分からないことがあるときに、図書館員を相談する相手としてみなしていないということだ。調査の結果、学生は先生にすら相談したり、質問することをためらうことがあるという結果が出ている。ましてや図書館員なんて蚊帳の外だということだ。彼らはわからないことは友人に聞いたり、先輩に聞くことのほうが多い。教員は敷居が高すぎるということだ。図書館員は学生に恐れられてはいても、相談相手だとは全く考えてもらえてない。ここから上岡さんは次のように提案していた。
 図書館員はもっと敷居を下げ、学生が相談しやすい環境を作るべきであり、また図書館員自身が学生がレポートを書くのをサポートできるようにスキルを高め、情報の検索に関してもそれを独立したものとしてとらえるのではなく、レポートを書くという行為の流れの中に位置づけてサポートできるようにしていかなくてはならないとおっしゃっていた。
 私も全くその通りだと思う。どうも図書館員は情報検索というものが独立して教えられるという考えをもってしまいがちに感じるのだけどやっぱりそれはすこし無理があると思う。*3レポートがどのような意味をもち、どのように書くべきなのか。そのなかで情報検索が何故必要なのかということを語らずに、実用的な検索技術だけを教えることには無理があるように感じる。*4しかし、上岡さん流情報リテラシー教育を実現するためには、人材育成等にコストも当然かかってくる。制度の変革も必要だ。この調査は組織として変革の難しさに挑むことへの根拠を示したという点で、意義のあるものだ。EBLというのが一体何なのかが朧気ながら見えた気がする。
 そして、もう一つ感心してしまったのは、この調査が慶応大学理工学メディアセンターのWGで行われたということだ。これはつまり業務として調査していたということになるからだ。相当手間暇かかるであろうこの調査と分析を業務で行うということは、現場全体にサービスを向上するという意志がなければできないだろうし、EBLへの意識の高さがないとできないことでもあると思う。素直にすごいと思う。

長くなってしまった。

*1:慶應義塾大学理工学メディアセンター 上岡真紀子氏の発表

*2:EBLについては以前ちょっと書いた。http://d.hatena.ne.jp/marcello/20071003/1191413527

*3:パネルディスカッションのときに、案の定会場からレポートの書き方を教えるのは教員の役目ではないのかという反論が出た。これに対して上岡さんは、情報リテラシーのコアは論理的、批判的能力だとおっしゃり、専門分野の内容的側面には踏み込まないまでも、情報リテラシー教育にはこのような能力を養成する役割があるのではないかとおっしゃっていた。私は上岡さんの意見に賛同する一方で、専門的内容とそうでないものを指導の中で区別するのは難しいのではと感じるので、教員との連携またはサブジェクト、あるいはリエゾンライブラリアンの人材育成をもって対応できないだろうかと感じた。

*4:id:katz3:20071023ここでのkatz3さんの御指摘は正鵠を得ていると思う。