ARGフォーラム「この先にある本のかたち」に行きました。

第1回ARGフォーラム「この先にある本のかたち」(長尾真 国会図書館長×金正勲・津田大介・橋本大也+内田麻理香)に行ってきました。

詳細な報告はかたつむりさんとこにあります。
いつもありがとうございます。

以下は感想です。
自分が取ったメモを元に興味を持ったことをつらつらと。

長尾館長の話

  • 電子図書館を含んだ出版のビジネスモデルや目次階層構造のはなしは、自分の予想していたはなしとほとんど同じだったので納得。検索が便利になるなあという程度。
  • 書物の解体に関しても話されてました。長尾館長が想定しているのは、他人の文章を引用するためや、他人の文章を批判するために書物が利用されるときの話でしょうかね?

 これに関してはフォーラム参加者のほかの方の感想

●検索の単位が図書のレベルからより細かいものになってきている(というかなるべきである)というのはそうだと思うが、FRBRでいう「著作」のレベルを把握したうえでないと危険ではないかと個人的には思う。
● というのはコンテンツ、テキストというのは単なるデータではなく、テキストにはコンテキストがあるということ。コンテキストを無視して引用や編集を行うことは、マスコミではよく行われており、インタビュー記事などで、発言者の意図と違う使われ方をして問題となることがよくあると聞く。政治家や企業トップの発言の一部だけを使って批判するようなやり方もまたしかり。
●そのような(引用者が引用したいところ「だけ」を読んで使うという)使われ方が増えると、例えば反語的な表現は使えなくなるだろうし、自分と異なる意見をそれこそ引用できなくなってしまう。そこだけ読まれて使われてしまったら困ることになるから。自分の主張以外のものを論述の中に含むことが、リスクが大きすぎてできなくなってしまう。これは説得力のある論証をする上での大きな制約となるのではないか。
●したがって「読みたいところだけを読むことができるようなる」というのは、便利ではあるし必要かも知れないが「読みたいところだけを読む」という読みの姿勢には賛同できない。
●仕組みの問題というより、読む側の問題か。

とありました。これも館長と同様におそらく引用とか批判するときの書物の解体についての話ですね。コンテクストの無視という広い意味での情報リテラシーの話。最後のところにご本人も「読む側の問題」と書かれていますし。
 これ以外に書物が解体されて利用される場合を考えてみると、辞典などを必要項目だけ読みたいとか。あとビジネス書なんかは文章のロジックを厳密に追いかけなくても、ポイントやフレーズだけから勝手に解釈して実践する人もいるだろうから、そうゆうひとはまとめだけ読みたいとか。そんな利用に関しては書物が解体されれば検索の役に立ちますね。

金正勲さんの話

  • 公共図書館電子図書館事業はオプトアウト方式でどうよ。って話はそりゃできればそのほうがいいですが…。図書館補償金の話は、長尾館長の構想している電子図書館を含んだ出版ビジネスモデルとほとんど同じ話に聞こえたのだけど、気のせい?実は合意ポイントではないかと。

 -韓国の事例は勉強になりました。

津田大介さんの話

  • CDと本の違いとして、CDはデータ化してパッケージが変化しても受容のあり方は変わらないけど、本は電子化すると受容のありかたが変化するって話は納得。

 CDからデータ化しても、スピーカーやヘッドホンから聴くっていう音楽の受容の形は変化していない一方で、本の電子化はデバイスが紙の集合からディスプレイに変化して受容の形が大きく変わってしまうから、そりゃあ容易には乗り換えできないでしょうね。津田さんの話にも出たけど、液晶ディスプレイに代わるデバイス、紙に代わる新素材が欲しいです。「電子分流体」方式の電子ペーパーとかですかね。

  • ipodみたいに本の電子化によるライフスタイルの提案が業界として必要なのではという話も納得。私は上記の受容のあり方の話と関係していると思ってます。ipodはイヤホンっていう受容の形を変化させなかった一方で、自分の所有しているすべての曲をCDのアルバムっていう概念を超えて管理し、シャッフルさせるっていうライフスタイルを提案してますが、電子書籍は紙からのデバイスレベルの変化が必要なので、もっと大きな変化を伴った提案になるんでしょうね。まだ想像もできませんが。

橋本大也さんの話

書籍はランダムアクセスには向いていないのではないか。他方でWebはランダムアクセスに向いており、実はGBSのようなものが進んでも文化的にはあまり問題ないのではないかと思うがどうか。

●これは実は最初の長尾館長の話(書物を解体するという)に関する重要な異議だと思うのだが、だれも触れなかった。残念。

とあって、これはちょっと興味をもちました。ふたつほど。
ひとつめ。橋本さんも使えないと思うのはデータの少なさが原因なのかもしれないとおっしゃっていましたが、GBSのデータが増えていけば、量が質に変わる可能性はあると思いました。楽観的観測ですが。現時点で判断するのはちょっと難しいのではないかと。
もうひとつは、データが増え、さらに出版の形が電子化とともに変化すればランダムアクセスを想定した書籍が増えるだろうなということです。それは現時点で「書籍」と呼んでいるものとはだいぶ異なるものになるのかもしれません。

いまんとこは一図書館職員としては技術の革新と出版界の動向を見守るだけですかね。橋本さんの五つの提案はちょこちょこ考えて実践していきたいなと思います。