情報検索のスキル

情報検索のスキル―未知の問題をどう解くか (中公新書)

情報検索のスキル―未知の問題をどう解くか (中公新書)

 この本はいわゆる情報検索の実用書ではなく、情報検索という行為を情報学や認知科学の観点から考察した本だ。情報検索の目的を問題解決だと捉えることによって、情報検索という行為が人間にとってどのような意味を持っているのか、またどのような過程で情報検索が進んでいくのかを考察している。
 なかでも特に興味をひかれたのは、情報検索の際の人間の感情や行動に、自己効力感が強い影響を及ぼしているという考え方だ。自己効力感について著者は次のように説明している。

自己効力とは、「人間が一定の成果を生み出す能力」である。これに対して、「自分は○○で成果を上げる能力がどの程度あると自覚しているか」が「自己効力感」である。(p.77)

著者は学習心理学者のバンデューラの自己効力理論を参照しながら、この自己効力感の影響は情報検索だけでなく、学業、仕事、スポーツなど様々な場面に影響していることを指摘している。自己効力感は自信と言い換えてもいい。情報検索に対して自信を持っているかどうかが、情報検索が成功するかどうかに影響してくるということだ。自己効力感の高い人間は、不安な要素があってもいつか成功できるという自信があるので、不安を拭い去って努力し続けることができる。そしてその努力は成功に結びつきやすいということ。この結論は日常を振り返ってみても私は大きな違和感を感じない。確かに、自信を持っている人間のほうが成功しやすいと思う。バンデューラの説はこの日常的な感覚を心理学的に裏付けることになるのかもしれない。著者は情報検索を問題解決へのプロセスと捉えることで自己効力理論を情報検索に応用している。この著者の視点は、行き当たりばったりになることの多い情報検索という行動を捉えるのに重要な視点だと感じた。